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イタリア

コモ湖畔の書斎から2 dalla finestra lariana2

2019 05 22 夜、寝込んでしまったレオを抱きかかえて二階の寝室に行く。
9時少し前の夜の散歩、夜といってもまだ外は明るいから夕の散歩と言ったほうが良いかもしれないけれども、レオと村を2,30分ほど散歩してくる。村の一本道では、すでに知り合いの犬たちと出会う。レオは犬が向こうから来ると、まずは立ち止まりジッと観察する。そして路上に伏せをする。そして待つ、相手の犬が近づいてくるのを。相手の出方を見ている。愛想がよければ立ち上がり、近づく。嫌いな犬には、立ち向かおうとするから気をつけないと行けない。
なかなか家に入りたがらないレオを入れると、家人が濡れティッシュで体を拭く。そしてその後は、家の中で遊ぶ。遊びに疲れると、家人の足下か、彼専用の椅子の上で寝入ってしまう。ぐうぐうと寝息を立てて。寝る時間になると、溺愛僕はレオを抱きかかえて二階の寝室へと上がる。レオは目を閉じたまま、僕の胸にだかれている。時々薄目を開くから、寝ているといっても完全に寝ているわけではなくて抱いているのが僕であることを意識しているしこれから本眠りをする階上に連れられていくことも知っている。
よく考えてみるとこれは凄いことで、おそらく野生の世界ではありえない。他者である誰かに完全に身を任せてしまうというような状況は考えられない。命の危険を委ねてしまうのだから。仮に寝入った動物に気づかれないように近づき触れようものなら、動物は一目散に逃げ去るか、攻撃をしかけてくるだろう。
ラファエレの聖母子像は有名だけれども、カトリックの国イタリアではあらゆるところで母子像に出会うことがある。教会にはいればもちろん、散歩していても小さな祠には聖母子像が祭られていたり、家にはしばしば聖母子像の絵が掛けられていたりする。カトリック教徒でない僕も、ベットの上には小さな木板に描かれた聖母子像が掛けられている。
聖母子像のキリストは寝ているわけではないけれども、僕は寝入ったレオを抱きかかえた時には、なんとなくこのカトリックの聖母子像のイメージが沸いてくる。だからそこに共通した何かがあるのだと思う。
子供は生まれてすぐに母親に抱きかかえられる。そして母親の乳房を探し、乳を飲む。これは真に原初的に体験だ。もちろん粉ミルクを使うことも多いし、何らかの事情で抱きかかえるのが血のつながった実の母親でないこともあるだろう。でも、生まれたばかりの子供にとって決定的に大事なことは、他者に支えられて宙に浮くという体験だ。それはまぎれもなく他者に自分の命を委ねる、他者が自分の命を守ってくれるという感情だ。
このような他者との関係、それはキリスト教的に言えば聖母子像の表現する「愛」ということになるのだけれども、それなしには人は生きることができないほどの原初的な感情だ。
キリスト教は、この「愛」のイメージを直接的な信仰の大きな柱としているけれども、これはキリスト教徒に限らず、世界中で、人間である以上は、むしろ人となるための始原的な感情のひとつと言える。このような、他者との愛、どうも僕はあまりに性と結びついた「愛」という言葉を使うのには抵抗を感じてしまうのだけれども、他者との愛の交換、それは生まれた時、すぐに母に抱きかかえられるという体験を通して始まる感情の芽生えだけれども、それが人として生きることの核心であると思う。「墜落」から自分を守って抱きかかえてくれるという感覚、感情がなければ生きることはそこで止まってしまう。日常生活のほんの些細な事ですら立ち向かう事はできなくなる。それはいつかも書いたように、見えない狼が徘徊する恐怖に満ちた森の中を歩くようなものだ。
ここ数日、日本の新聞をにぎわせている様々な不条理な殺傷事件、加害者の生きてきた「心」がどれだけ孤独なものであったかを思うとゾッとする。母親に始まる抱きかかえられる心は、父親、親戚、友人、学校、社会と徐々にその輪を広げていくのだけれども、この加害者はそのどの段階でも、誰からも支えられることが無かったのだから、それは共同体そのもののあり方に、かなりの「責任」があるはずだ。今回の事件では、自殺によって加害者は命を絶ってしまったけれども、仮に生き延び社会が死刑に処したとしてもそれは犯罪そのものに責任をもつ共同体の責任が逃れられる訳では無い。亡くなった命はもう二度と帰らないのだから。



2019 05 22 夜、寝込んでしまったレオを抱きかかえて二階の寝室に行く。_a0364372_21295585.jpg
EPSON R-D1x CANON 135mmF3.5
手前の山はカンポデイフィオーリ1227m、その向こうに見える雪山は、ヨーロッパアルプス第二の高峰モンテローザ4634m。




























by kimiyasuII | 2019-06-05 22:35 | Comments(0)